
消費者庁は2026年9月11日、メール配信サービス「みんなの消費安全ナビ from 消費者庁」Vol.696で、「高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」と呼びかけました。
段差、浴室、電気コード、ソファからの立ち上がり。紹介された事故は、どれも日常の暮らしの中で起きたものです。本記事では、消費者庁の注意喚起の内容を整理したうえで、「高齢者の住まいを、転倒しにくい環境にするにはどうしたらよいか」を、住まいの視点から考えます。
- 目次
1. 高齢者の家庭内での転倒事故に注意
消費者庁が注意喚起
消費者庁は、国民生活センターと共同で「医療機関ネットワーク事業」を運営し、参画する医療機関(2026年9月時点で28機関)から事故情報の提供を受けています。今回の注意喚起は、この事業に寄せられた情報をもとにしたものです。
家庭内の事故は「転倒・転落」が約半数
国民生活センターは2025年10月29日、同じ医療機関ネットワーク事業の情報を分析した報告「医療機関ネットワーク事業情報からみた高齢者の家庭内事故」を公表しています。2020年4月から2025年7月末までに寄せられた、65歳以上の家庭内事故923件を対象としたものです。
・事故のきっかけは「転倒」と「転落」で事故全体の約半数を占めていました。
・75歳以上では「転倒」が33.4%(185件)、「転落」が23.3%(129件)でした。65歳以上75歳未満では「転倒」19.8%(73件)、「転落」22.2%(82件)でした。
・治療を必要とした事故は約9割で、「要入院」は両年齢層とも37.7%と最も多くなっていました。入院が必要となった事故では、転落・転倒による骨折や頭蓋内損傷が半分以上を占めていました。
同報告に寄せられた専門家のコメントでは、転倒を経験した高齢者は再び転倒するリスクが高いこと、大腿骨頸部骨折が寝たきりや要介護状態に移行する大きな要因となることが指摘されています。家の中の転倒は「よくある小さな事故」ではなく、その後の暮らし方に影響しうる事故だといえます。
2. 実際にどのような転倒事故が起きているのか
消費者庁の注意喚起では、医療機関から寄せられた次の4つの事例が紹介されています。
【ケース1】段差 80歳代
自宅から庭に出る際、段差につまずき転倒し、左大腿骨を骨折、左側頭部や左手を打撲。
【ケース2】浴室 70歳代
自宅の浴室で滑って転倒し、後頭部に8cmの切り傷を負い、救急要請。
【ケース3】電気コード 70歳代
自宅内を歩いていた際、コードにつまずき転倒した。右膝を骨折し入院。
【ケース4】ソファからの立ち上がり 70歳代
自宅でソファから立ち上がる際、バランスを崩して転倒し、腰椎の圧迫骨折。
いずれも、特別な作業中ではなく、移動や立ち上がりといった日常の動作の中で起きています。
国民生活センターの報告にも、日常生活の中での住まいに関わる転倒事故の事例が掲載されています。
【事例】浴室風呂場で体勢を崩し、背部を打撲。肋骨骨折あり(70歳代・女性)
【事例】スリッパ・靴下 • 自宅内でスリッパが脱げ、靴下が滑って転倒。手首に近い前腕の骨(橈骨遠位端)を骨折(70歳代・女性)
【事例】階段 • トイレに行こうとした際に、誤って階段14段を転落。背骨の圧迫骨折があり入院(70歳代・女性)
【事例】カーペット • 夕食準備中、カーペットの盛り上がった縁に足を引っかけて転倒し、そばの石油ストーブに腕が触れてやけど(70歳代・女性)
3. 高齢者はなぜ転倒しやすくなるのか
転倒には、体の状態と、暮らしの中の環境が重なって起きるという特徴があります。国民生活センターの報告に寄せられた専門家のコメントでは、転倒は単なる不注意によるものではなく、加齢に伴う身体能力の変化と生活環境という外的要因が複合して起きる事故だと説明されています。主な要因として挙げられているのは次のとおりです。
• 筋力・バランス能力・歩行能力の低下(転倒の最も大きな要因とされています)
• 病気の影響(パーキンソン病など)
• 服薬の影響(向精神薬や降圧剤など)
• 反射や視力の低下により、小さな段差や床のコードに気づきにくくなること
ただし、体の状態には大きな個人差があります。年齢だけで「転びやすい人」と決めつけるのではなく、一人ひとりの体の状態と、その人が暮らす住まいの組み合わせで転倒のリスクを考えることが大切です。
4. 家の中にはどんな転倒リスクがある?
消費者庁・国民生活センターの資料をもとに、住まいの場所ごとにリスクを整理しました。
玄関・段差
消費者庁は、階段や玄関などの段差を、つまずく事故の原因となる場所として挙げています。事例にも、自宅から庭に出る際に段差でつまずいたケースがあります。
玄関の上がりかまちや、掃き出し窓から庭へ出る段差は、足を大きく上げる動作が必要になる場所ですので、筋力低下と視力の低下が合わさると転倒リスクが増えるところです。
廊下・居室
国民生活センターは、1〜2cmの敷居、じゅうたんの端、室内のコードを、足を引っかけやすいものとして挙げています。部屋と部屋の境目にある小さな段差は目立たないために気づきにくく、視力の低下が進行すると転倒リスクが増えるところです。
浴室・脱衣所
消費者庁は、ぬれた床、せっけんの泡、浴槽や脱衣所への出入りなどにより、浴室は滑りやすい環境だとしています。浴槽をまたぐ動作や、ぬれた足で脱衣所に出る動作は、片足立ちや足元の変化が重なりやすい場面です。病気や服薬の影響でバランスを崩しやすくなると、転倒リスクが増えるところです。
トイレ
国民生活センターの分析では、75歳以上の転倒に関わる商品等の上位10位に「トイレ設備」が入っています。便座からの立ち上がりや、狭い空間での向きを変える動作が伴う場所です。
寝室・ベッド周辺
消費者庁は、ベッドから起きてトイレに行こうとするときなど、体勢を変える場面での注意を呼びかけています。国民生活センターの分析では、75歳以上の転倒・転落のいずれでも「ベッド類」が上位に入っています。夜間は暗さや寝起きのふらつきも重なりますので、病衣や服薬の影響、視力の低下などが重なると転倒リスクが増大します。
階段
国民生活センターの分析では、75歳以上の「転落」のきっかけとなった商品等で「階段」が1位(49件)でした。消費者庁は、階段に手すりや段の先端部への滑り止めを設けることを勧めています。
家具・コード・床上の物
消費者庁の事例には、コードにつまずいて膝を骨折し入院したケースがあります。床に置いた物、電気製品のコード、めくれやすいカーペットは、歩く動線上にあると足を取られる原因になります。また、ソファや椅子からの立ち上がりも事故の場面として紹介されています。
5. 転倒を防ぐために、住環境を見直す
消費者庁が示す注意ポイント・国民生活センターのアドバイス
消費者庁は、次の5つの注意ポイントを示しています。
1. 段差のある所に手すりや滑り止めを設置する:階段や玄関などの段差には手すりや先端部の滑り止めを設ける。足元を照らすランプや段差解消スロープを設置する方法もある。
2. 浴室や脱衣所に手すりや滑り止めマットを設置する:浴室は滑りやすい環境のため手すりを設置し、足元に十分注意する。脱衣所に滑り止めマットを敷くことも有効。
3. 床になるべく物を置かず、整理整頓する:コードに足を取られないよう電気製品を配置する。めくれやすいカーペットの下には滑り止めを敷く。
4. 体勢を変えるときは慎重に:椅子やソファから立ち上がるとき、ベッドから起きてトイレに行こうとするときは、ゆっくり慎重に。安定した近くの物にしっかりつかまる。
5. 個人に合った適度な運動を続ける:日頃から可能な限りこまめに体を動かし、体力の維持に努める。
国民生活センターは、転倒予防には身体機能の維持・向上と住環境の改善の両方を進めることが重要だとしています。環境面の対策として、階段や段差への手すり・滑り止めの設置、室内のコード類をまとめること、滑りにくいスリッパや安定した高さのベッド・椅子を選ぶことを挙げています。体の面では、自治体の「転倒予防教室」や「介護予防教室」などの活用を紹介しています。
消費者庁が紹介した転倒事故は、段差、浴室、コード、立ち上がりといった、どの家にもある場面で起きていました。転倒予防は、体の機能を保つことに加えて、転倒しにくい住環境を整えることからも始められます。ご本人とご家族で一度、住まいを見直してみてはいかがでしょうか。
住まいの環境は、一度整えれば毎日の転倒リスクを下げ続けてくれる対策です。本人が注意を払いにくいときにも働く点が、住まいの見直しの大きな意味です。
参考資料
・消費者庁「Vol.696 高齢者の家庭内での転倒事故に注意しましょう!」(2026年9月11日)
・独立行政法人国民生活センター「医療機関ネットワーク事業情報からみた高齢者の家庭内事故」(2025年10月29日)
10月10日の「転倒予防の日」に合わせた消費者庁の取組や、生活環境のチェックポイント「ぬ・か・づけ」については、関連記事をご覧ください。
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