前回の記事では、高齢者住宅協会が令和7年3月に実施した最新調査をもとに、高齢期の自分らしい暮らしが健康寿命を延ばすことをお伝えしました。今回は、高齢者の住み替えが日本全体の住宅問題の解決にどのようにつながるかについてお話しします。


日本全国で深刻化している「空き家問題」。その一方で、これからの人生をより充実させたいと考える高齢者は増えています。この一見すると相反するふたつの課題が、実は大きなチャンスに変わる可能性があることがわかってきました。


自分たちが元気なうちに適切な住まいに移り、それまで住んでいた家を活かす。この「住宅循環」が、個人の人生を豊かにするだけでなく、日本の住宅ストック全体を有効活用し、社会全体をも豊かにするという、大きな役割を担えるのです。

目次

高齢者の住み替えの特徴は

日本の住宅事情は、ユニークな課題を抱えています。

団塊の世代が若い頃(高度経済成長期)に建てられた家が残っているのに、築年の古い家の住宅市場の評価は低く、せっかくの「資産」を活かしきれておらず、「空き家」が社会問題となっています。

一方、高齢者向けの住まいの供給が進む中でも課題があり、高齢者住宅協会の調査対象になったサービス付き高齢者向け住宅(サ付き住宅)約29万戸のうち、78.7%は住室面積が25㎡に満たない居室で、40㎡以上の居室はわずか4.3%にとどまっています。

これ、逆に考えてみましょう。もし、元気なうちに「自分らしい暮らし」ができる新しい住まいに移った場合、それまで住んでいた家はどうなるのでしょうか。調査が注目したのは、まさにこの「住宅ストック循環」という視点なのです。

住宅が循環する時に起こること

調査からは、興味深い事実が報告されています。自立型の高齢者住宅事業者のうち38%が前住宅の活用について相談窓口を紹介しているのです。

さらに注目すべきは、新しい住まいの広さと売却意向の相関関係です。40㎡以上の新居に移った高齢者は実家の売却意向が高いのに対し、狭い居室では売却意向が低くなります。理由は現実的です。狭い新居には、長年の生活で蓄積した家具や衣類、思い出の品が入り切りません。結果として、家財が実家に残され、実家は「空き家」ではなく「家財が残された家」となり、売却が極めて難しくなるのです。

新しい住まいに満足できれば、実家の家財を整理し、新たな人生にコミットする決断につながります。適切な広さと収納があれば、本人と家族が新しい住まいについて相談でき、実家の家財整理と活用方法を一緒に検討できるようになるのです。このプロセスが進むと、「空き家」が「市場で活用される資産」へと変わるわけです。

趣味と外出が地域を活性化させる

調査で特に注目すべき点は、住み替えた高齢者の生活様式の変化です。広めの住まいに移った方々は、調理、外出、趣味活動といった主体的な行動を継続しています。

特に「外出」という行動に着目してみましょう。自分で食事の準備をする人は、食材を買うために外出します。つまり、近所のスーパーや商店街に足を運ぶことになるのです。これは、単なる「個人の健康維持」ではなく、地域の商業活動を支え、人間関係のネットワークを保つことにつながります。

調査からは、外出や趣味活動が充実している高齢者の介護費用は、そうでない人に比べ、6年間で100人当たり最大130万円も削減できるという推定も示されています。つまり、高齢者が活動的に暮らすことは、個人の充実感だけでなく、社会全体の負担軽減につながるのです。

防犯、寒さ対策、転倒防止~生活の質が向上する

調査で興味深かったのは、入居者が以前の住まいと新しい住まいを比べてどう感じるかについての声です。

「防犯上の安心感が得られた」「寒さが解消された」「転倒防止設備が整っていて安心」という評価が高いのです。これは、単なる「快適性の向上」ではなく、心身の安定につながる根本的な要素なのです。

心配事が減り、身体が温かく、転倒のリスクが低くなる。こうした環境で暮らすようになると、自然と気持ちにも余裕が生まれ、さらに活動的になるという好循環が生まれるのです。

「住まい」が循環する社会に向けて

人口減少と高齢化が同時進行する日本において、住宅をどう活かすかは、単なる「不動産問題」ではなく、「人生の質」「地域の活力」「社会保障費の効率化」すべてにかかわる重要なテーマです。

高齢者住宅協会の調査が示唆しているのは、「住まいが循環する社会」の大切さです。元気なうちに、自分たちの生活を制限しない住まいに移ること。それにより実家が新たな用途で活かされること。その結果として、高齢者も地域社会も活性化すること。

これは、誰もが「他人事」ではなく、自分や自分の親の人生に関わる課題です。今、親の介護の受け皿を考えるときや、自分たちの老後について家族で話し合うときには、単に「どこかにお願いする」のではなく、「どう住み替えるか、どう自分たちの資産を活かすか」という視点を持つことが大切なのです。

適切なサポートと支援があれば、あなたの「住まい」の選択は、自分たちの人生を豊かにするだけでなく、日本全体の課題解決にもつながる。そんな時代が今、始まっているのです。

資料:一般社団法人高齢者住宅協会プレスリリース「40㎡住宅が住宅ストック循環の起点に!―自立型高齢者住宅の実態調査が「健康寿命延伸と住宅ストック活用の好循環」を示唆―」

関連リンク:PR TIMES「40m2住宅が住宅ストック循環の起点に」

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